◎10:40 - 11:10 「無意識をあやつる脳」
   
 
関 和彦 (せき かずひこ)
(国立精神・神経医療研究センター神経研究所 部長)
【講演要旨】
 人間は話したいときにはおしゃべりし、何かほしいときには手を伸ばしてつかみ、嬉しいときにはにっこり笑う事ができます。このように我々の意図や意識を行動に結びつけるのは脳の重要な仕事です。しかし、我々の日常生活のうち「意識して」行うものはごくわずかです。
 例えば、考え事をするときに腕組みをするなど、特に意識していないのに行っている行動が多くあります。このように、「無意識のうちに」行われている生物の行動はどのように制御されているのでしょうか?私たちは、無意識行動が脳によってどのように制御されているのかを調べるために、脊髄の働きをモデルにして研究を進めています。脊髄は歩行や反射など、無意識運動の中枢として知られているからです。これまでの研究から、無意識行動だけでなく意識して行う行動の多くが、脊髄の神経細胞を経由して制御されている事が示されました。さらに実験データを解析すると、意識して行う行動が、脊髄などで作り出される無意識運動の組み合わせによって表現できる事が分かってきました。脳損傷や脊髄損傷などを受けた患者さんの場合、無意識運動を作り出す神経機能は健全に保たれているにも関わらず、脳がそれらをうまく操れないために、意図した行動が行えないのかもしれません。もしそれが本当なら、脊髄の活動をコンピュータなどの外部装置によって人工的に操作し、引き起こされる無意識運動をうまく組み合わせる事によって、様々な行動を作り出すことができるはずです。
 このような新技術を開発・実用化して「自分の手足を思いどおりに動かしたい」という患者さんの願いを少しでも実現させるのが私たちの夢です。
【講演者プロフィール】
1998年 筑波大学大学院医学研究科 博士課程修了 博士(医学)
1998年 米国ワシントン大学 生理生物物理学部 博士研究員
1999年 Human Frontier Science Program (HFSP) Long-term Fellow
2001年 自然科学研究機構 生理学研究所 助教
2009年 国立精神・神経医療研究センター神経研究所 部長

2009年

(独)科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業
さきがけ「脳情報の解読と制御」研究者 兼任
【研究分野】
神経生理学・運動制御
研究室URL http://www.ncnp.go.jp/nin/guide/r_model/index.html
 
    ◎11:10 - 11:40 「妬みと他人の不幸は蜜の味の脳科学」
   
 
高橋 英彦 (たかはし ひでひこ)
(京都大学大学院 医学研究科 講師)
【講演要旨】
 情動・意思決定・意識など従来どちらかというと心理学・経済学、哲学の研究者のテーマが脳科学のテーマとなり、神経経済学、神経倫理学、神経哲学などの新たな研究領域が新興しています。こうした中で、私たちも複雑な情動や意思決定の脳内メカニズムを検討することを行ってきました。
 今回は、その一環として複雑な感情でこころの痛みとも呼ばれる妬みやそれに伴う他人の不幸を喜ぶ感情(他人の不幸は蜜の味)の脳内メカニズムを中心にお話ししたいと思います。今後、こうして明らかになった所見をもとに、こころの痛みや不調を伴う精神医学的な病気の客観的な診断の開発に役立てるとともに、こうした脳情報を制御して新たな精神科の治療に結びつけていきたいと考えています。
【講演者プロフィール】
1997年 東京医科歯科大学医学部 卒
1999年 医療法人静和会浅井病院 精神科 医師
2005年 メルボルン大学 客員研究員
2006年 (独)放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター 主任研究員
2008年 (独)科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 
さきがけ「脳情報の解読と制御」研究者 兼任

2008年

カリフォルニア工科大学 客員研究員

2008年

玉川大学 脳科学研究所 特別研究員

2010年

京都大学医学研究科精神医学講座 講師
【受賞歴】
2010年 文部科学大臣表彰 若手科学者賞
2009年 第46回ベルツ賞一等賞(共同受賞)
2006年 財団法人長寿科学振興財団 奨励賞 など
【研究分野】
精神医学、認知神経科学、脳画像研究
研究室URL http://www.kuhp.kyoto-u.ac.jp/ ̄psychiat/
 
    ◎11:40 - 12:10 「以心伝心を科学する」
   
 
駒井 章治 (こまい しょうじ)
(奈良先端科学技術大学院大学 准教授)
【講演要旨】
 私たちの脳は、私たちが知る知らないにかかわらず様々な情報を処理しています。見たいものを見、伝えたいことを伝え、動きたい方向に動き、緊張すれば呼吸や鼓動が早くなります。こういったすべての「行動」を脳はどのように制御しているのでしょうか。このような疑問に対する答えが見つかると、コンピュータや機械を自分の手足のように使うことができるようになります。近頃はこういった技術を使って車イスやロボットの手足を動かせるようになってきました。「ブレイン・マシーン・インターフェイス: BMI」と呼ばれるこの技術は、私たちの生活を便利にしてくれるだけでなく、私たちが何らかの事故などで身体に障害を受けた場合のリハビリテーションにも使われはじめています。
 今までのところ、このBMIは脳の電気的変化(脳波)や血流量の増減を元に、いろんな計算をすることで脳がどういった情報を表そうとしているのかを推定し、車イスやロボットを動かすという手法をとっています。しかし、脳波等の利用では取り出せている情報の量が限られているために、車イスやロボットをもっと複雑に動かすまでには至っていません。そこで、脳の情報を神経細胞一つ一つの解像度で計測し、その情報が本当に目的の情報であったのか否かを「光」を用いた刺激によって再現するという方法を用いて、脳の働きを理解しようとしています。こうした研究を進めていくことで、私たちの脳の働きの理解だけではなく、新しいコンピュータの使い方や人間関係を提案できると考えています。
【講演者プロフィール】
2000年 奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科
博士後期課程修了 博士(バイオサイエンス)
2000年 三菱化学生命科学研究所・神戸大学医学部第二生理教室 特別研究員
2003年 Max-Planck-Institute for Medical Research, Heidelberg Fellow
2005年 奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科 助教
2008年 奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科 准教授

2009年

(独)科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業
さきがけ「脳情報の解読と制御」研究者 兼任
【研究分野】
細胞認知神経科学
研究室URL http://sites.google.com/site/komailab/
 
    ◎13:20 - 14:00 「脳科学とアウトリーチ」
   
 
瀬名 秀明 (せな ひであき)
(作家)
【講演要旨】
 「脳科学とアウトリーチ」という講演タイトルは主催者からいただきました。私はアウトリーチ活動の専門家ではありませんし、脳科学の専門家でもありません。この講演ではいわゆる脳科学神話(neuro myth)と呼ばれる問題についてあれこれ苦言を呈するつもりもありません。(ただし脳科学神話を恐れながらそれとうまく共生して
世間の関心をつなぎとめ、日々の研究費を稼がなければならない科学コミュニティの複雑な現状にはちょっと興味がありますが。)
 私は作家なので、この講演では私が読んでおもしろいと思った脳科学の書籍の話をします。一見、脳科学とはなんの関係もなさそうな本の中に、脳科学の本当のおもしろさが隠れていることもあります。そんな意外な脳科学を会場の皆様といっしょに発見できたら、と思っています。
【講演者プロフィール】
1968年 静岡生まれ 作家 薬学博士
1995年 『パラサイト・イヴ』で第2回日本ホラー小説大賞受賞
1998年 『BRAIN VALLEY』で第19回日本SF大賞受賞
その他『デカルトの密室』『エヴリブレス』『ロボット・オペラ』『大空の夢と大地の旅』『インフルエンザ21世紀』など、小説・科学ノンフィクションの著作多数
2008年から2010年まで朝日新聞書評委員
ホームページ http://www.senahideaki.com/
 
    ◎14:00 - 14:40 「前頭葉の科学と非科学」
   
 
坂井 克之 (さかい かつゆき)
(東京大学大学院医学系研究科 准教授)
【講演要旨】
 私たちが見たり、感じたり、行動したり、考えたりすることができるのは脳の働きのおかげです。それどころか「わたし」という存在自体も脳の働きなしには成立しません。ではこの無限に多様な形をとる私たちの心は、脳のどのようなメカニズムによって生まれてくるのでしょうか。脳研究は奥が深くて難しそうですね。でも一方で「脳科学」はバラエティーショーのネタとして定着した感があります。恋も勉強も「脳科学」を知れば、ばっちり・・・なんて簡単でわかりやすい話もよく耳にします。このギャップはどこからくるのでしょうか。今回は脳の前のほうの部分である前頭葉を中心にして、難しそうな脳研究と分かりやすい脳科学の本当のところをお話しします。前頭葉は脳のその他のすべての部分から信号を受け取り、また送り出している部分です。この前頭葉を中心とした信号のやり取りによって、私たちの行動や思考が制御されているのです。そんな大事なところならば、よく言われているように「前頭葉を鍛えて人生バラ色」とか「前頭葉を使わないと廃人」になるのでしょうか。皆さんが確かだと思っている話が科学的には何の根拠もなかったり、うそのような話が本当だったりすることはいくつもあります。ではどうやって見分ければよいのでしょうか。必要なのは知識ではありません。先入観を持たずにごくごく普通に考えてみること、これが一番大事なことです。いっしょに考えてみましょう。
【講演者プロフィール】
1990年 東京大学医学部医学科 卒業
1990年 東京大学医学部附属病院 医員
1995年 東京大学大学院医学系研究科博士課程 入学
1999年 東京大学大学院医学系研究科博士課程 修了(医学博士)
2000年 ロンドン大学神経学研究所 リサーチフェロー

2004年

東京大学大学院医学系研究科 認知・言語神経科学分野 助教授

2007年

同 准教授
【研究分野】
認知神経科学、脳機能画像、前頭葉による行動制御
【著書】
「脳の中のわたし」(ブルーバックスピース)
「脳科学の真実 脳研究者は何を考えているか」(河出ブックス)
「心の脳科学 わたしは脳から生まれる」(中公新書)
「前頭葉は脳の社長さん? 意思決定とホムンクルス問題」(ブルーバックス)
 
    ◎14:50 - 15:30 「脳のエネルギー消費」
   
 
柳田 敏雄 (やなぎだ としお)
(大阪大学大学院生命機能研究科 特任教授) 
【講演要旨】
 脳は“大食漢”だと言われています。確かに、他の臓器に比べて脳は10倍ものエネルギーを消費します。では、コンピュータと比べるとどうでしょう。休んでいる時の人間の脳の消費エネルギーは20ワットです。さらに、ものを考えるとどれだけ消費エネルギーが増えるかMRIという装置で脳の中の温度を測定して見積もってみました。驚くことに、たった“1ワット”しか使っていませんでした。“なぜ世界第1位でなくてはいけないのか?”で有名になった神戸のスーパーコンピュータの消費電力は3千万ワットで、淡路島全世帯の消費電力に相当します。3千万倍のエネルギーを使っても、コンピュータは脳のほんの一部の働きしかまねできません。逆に、脳をコンピュータとみたててデジタル的に働かせるとどれくらいのエネルギーが必要か見積もってみると、なんと原子力発電機が何億台あっても足りないと言う計算になりました。脳は“大食漢”どころか“超超省エネ機械”だったのです。
 なぜ、脳は省エネなのか。最近この問題に答えが見えてきました。キーワードは“ノイズ”です。コンピュ−タは膨大なエネルギーを使ってノイズを遮断し、正確に厳密に働いています。一方、脳はノイズを遮断せずそれを有効利用することで省エネを実現しているらしいことが解ってきました。また、厳密でなくノイズを使って“いい加減”に働く方が複雑なシステムを安全に巧くコントロールできることも解ってきました。講演では、脳の巧妙な仕組みと、その仕組みを使ったロボットなど超省エネ複雑機械の実現の可能性を議論します。
【講演者プロフィール】
大阪大学基礎工学部生物工学科教務員、同大学基礎工学部生物工学科助教授、同大学基礎工学部生物工学科教授、同大学医学部第一生理学教授、同大学院生命機能研究科研究科長、同大学院命機能研究科教授を経て、現在同大学院命機能研究科特任教授。
1992年 科学技術振興事業団創造科学技術推進事業「柳田生体運動子プロジェクト」「1分子過程プロジェクト」総括責任者
1998年〜 通信総合研究所情報通信ブレークスルー基礎研究21柳田結集型プロジェクト総括責任者
2002年〜 科学技術振興機構研究領域「ソフトナノマシン等の高次機能構造体の構築と利用」における研究課題「ゆらぎと生体システムのやわらかさをモデルとするソフトナノマシン」研究代表者
2008年〜 (独)情報通信研究機構 プログラムコーディネーター
2009年〜 (独)理化学研究所 特任顧問を兼任。
専門分野は生物物理学。主な研究テーマは生体分子の1分子計測・生体分子機械の動作原理・脳記憶のダイナミズムに関する研究など。
【受賞暦】
1989年 第7回大阪科学賞
1990年 塚原仲晃記念賞
1992年 Matsubara Lecture Award
1994年 第25回内藤記念科学振興賞
1998年 日本学士院賞恩賜賞
1999年 (財)朝日新聞文化財団朝日賞
 
 
 
 
 
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